
東洋医学では、「人体は小天地」であると捉えます。私たちは、宇宙という大きな天地と同じ理(ことわり)で生かされている、小さな宇宙そのものなのです。
古人が大切にした「天地人(三才)」の視点から、私たちが健やかに老い、豊かに生きるための養生の秘訣を紐解いてみましょう。
目次
1. 天地の「訢合(きんごう)」と人生の四季
『礼記(らいき)』という古典には、天と地が喜び合い、睦まじく交わる「天地訢合」によって万物が育まれると記されています。この天地の交わりは、私たちの体内でも絶えず繰り返されています。
- 乳幼児期(天の優位と成長の勢い):
赤ちゃんの体は、バランス的に頭(天)が大きく、天の気が降り注いでいます。生命を生み出すエネルギーが最も強く、天地の気が溶け合う「絪縕(いんうん)」の力が、未熟な肉体を急速に成長させています。 - 青年・壮年期(天地の躍動と完成):
成長とともに下半身(地)が発達し、「天の気が降り、地の気が昇る」という循環と身体(器)が完成します。気が下腹(丹田)に収まり、体内で天地の気がこすれ合い、揺れ動く(相摩・相蕩)ことで、生命力溢れる躍動が生まれます。 - 老年期(バランスの変化と地の減衰):
老化とは、このダイナミックな天地循環の勢いが弱まり、器(身体)が脆くなることです。本来、地の気は力強く上昇して天の気と交わるべきものですが、足腰が弱まると「昇る力」が衰えてしまいます。すると、意識(天)ばかりが空回りし、天地のバランスが崩れていくのです。
2. 「老化は足から」——活力を支える地の力
「老化は足から」という言葉は、東洋医学的に見れば「地(下半身)の衰えによる天地の不調和」と捉えることができます。
- 生命力を載せる土台としての足腰:
『礼記』には「埊(地)は神気を載す」とあります。私たちの生きる活力(神気)を支えているのは、実は「地(下半身)」の安定感なのです。土台である地が揺らげば、その上に載る神気もまた不安定になります。 - 「足を鍛える」ことの真の意味:
足腰を鍛えることは、単なる筋トレではありません。弱まった地の力を高め、再びエネルギーを上昇させて天の気と交わらせる行為です。養生とは、まさにこの「天地が交わり、二つの気が通じ合う」状態を、身体を通して維持することに他なりません。
3. 五臓の養生——瑞々しい生命力を保つために
天地の理を五臓(心・肺・脾・肝・腎)に配することで、具体的な養生の指針が見えてきます。
- 天の臓(心・肺): 天のように全身を覆い、呼吸と循環を通じて生命を育みます。
- 地の臓(脾・腎): 地は万物を生み出す源です。老化により地の力が衰えるとき、真っ先に守るべきは、日々の活動源(後天の気)を作る「脾(ひ:消化器)」と、生命の源(先天の気)を蓄える「腎(じん)」です。
「天地が交われば万物が生まれる」、体内において天地が正しく交わってこそ、新しい生命力が日々生まれ変わります。脾と腎を養い、足腰を盤石にすることは、体内の豊かな交わりを維持し、老いてもなお瑞々しい身体を保つための「最高の養生」となるのです。
💡 用語集:
- 訢合(きんごう): 天地の気が和らぎ、喜び合って睦まじく交わること。万物が健やかに育つ最高の状態です。
- 化生(かせい): 何もないところから新たな生命や形が生み出されること。
- 絪縕(いんうん): 天地の気が混じり合い、エネルギーが充満している様子。生命誕生の源となる力です。
- 相摩(そうま)・相蕩(そうとう): 互いにこすれ合い、揺れ動くこと。この摩擦と振動が生命のダイナミズムを生みます。
- 神気(しんき): 生命活動を支える根源的な精神や、生き生きとした輝きのこと。
- 先天の気(せんてんのき): 親から受け継ぎ、「腎」に蓄えられている生まれ持った生命エネルギー。成長や発育、生殖の源となります。
- 後天の気(こうてんのき): 生まれた後に、飲食(脾の働き)や呼吸によって取り入れるエネルギー。日々の活動を支える燃料のようなものです。