ある年、3月土曜日の午前、9歳の女の子が母親に連れられて来院した。
母親は東洋医学の良さを身をもって体験しているので
子供の体調が悪い時など相談を受けることがある。
母親曰く
子供の頭の音がおかしいとのこと。
頭を手掌でトントンとたたいてみると
中が空っぽのような、音がするというのだ。
うーん、どれどれ。同じように頭をたたいて確かめてみる。
すると、たしかに前額部のあたりからは空っぽのような音がする。
ちょうど、空箱をたたいたような感じだ。
他の部位からは、しっかりと中身が詰まった音がする。
加えて、下焦(臍より下の部分)に異常な熱を感じる。
身体の下から気が漏れているのだ。
東洋医学では、調和を取ることを重んじるので
治療としては、下の漏れを防ぎ、上の空っぽの場所を気で補うことで
気のバランスをとることにした。
ツボは、臍下丹田のあたりから択んでみた。
治療後に、頭の音を確認すると。
しっかり充実した音がするではないか。
母親もほっとしていた。
初回の治療はこれで終了。
数日後、2度目の来院。
母親の曰く
当日は帰宅後、たっぷり昼寝したそうだ。そして、その夜も熟睡していたとのこと。
以前と比べて変化したことは、
話すスピードが速くなっており、早口になったそうである。
気になる頭の音を確認してみる。
以前ほどではないが少し空虚感はまだ存在した。
治療後に、良く眠れた場合は、体調が回復へ向かうことが多い。
今回の治療も、前回同様に丹田付近を充実させるように行い終了した。
数日後、母親から連絡を受けた。
やはり話すスピードが以前と違って、確実に速くなっている。
加えて、話の内容が高度になっており、思考するようになったとのこと。
例えば、何か質問すると、「わかんなーい」という気の抜けた返事が多かったそうだが
治療後は、自分なりに答えを考えて返事をするようになったそうである。
また、この数年来、食欲旺盛で過食気味であったが
この初回の治療以後は、並の食事量で満足するようになったそうだ。
頭の音は、以後気にならないそうで、是で治療終了とした。
おそらく、頭の空だった所が活動を始めたので、
頭の回転が速くなったのであろう。
特に、食欲抑制の治療をしたわけではないが、
頭の働きに働きかけたために、摂食中枢の視床下部に影響を及ぼしたものと思われる。
しかし、不思議な体験であった。
平成己丑年戊辰月乙未日 穀雨