大學 朱熹章句 6

コウコウニイハク、ヨク・トクヲアキラカニス
康誥曰、克明德。

周の武王の御弟の康叔(こうしゅく)が衛の国主となされる時、
康叔へ教え誥(さと)された所の文ゆえ康誥とはいふ。
「克」の字は「勝」といふ字に通じて、誠に戦によって人に勝つように、
心の利欲・汚穢(けがれ)に勝ち、これを去り、
己が徳を明にすべしとの意である。

タイコウニイハク、コノテンノメイメイヲカヘリミル
大甲曰、顧諟天之明命。

殷の第四代の帝・大甲に摂政伊尹がおしへ諭したる文なり。

明命とは天より明らかに明付(おふせつけ)られたる徳で、人みな是あり。
それが暗(くろう)なりはせぬかと心を付けて見るをいふ。
顧みるとは常に目を付けて見る意である。

テイテンニイハク、ヨクシュントクヲアキラカニス
帝典曰、克明峻德。

聖人帝の徳を賛(ほめ)し文である。
後の世にても帝の徳を仰せ奉るという心なり。
堯帝、上天の徳にかなひたまふといふも
胸中にあるその明徳を天下へ推しおよぼし万民を恵みたまふなり。
かく峻(おほい)なる徳といふも、外(ほか)ならず。
但し常人はこの私といふ欲にくらまされて
克く明かにせざるを以てなり。

ミナミズカラアキラカニスルナリ
皆自明也。

右の三カ条といへども、外に替(かはり)しとならず。
自己にその志を立て徳を明(みがき)たまひしことにて
人の與(あづかり)知ることにあらずと曾子の御辭なり。

ミギデンノシュショウハ、メイトクヲアキラカニスルヲシャクス
右傳之首章、釋明明德。

右聖人の明徳を仰せられし意(こころ)を述べんとして
曾子此三つの語を御引きなされ釈(とき)たまひしなり。
是を伝文の首(はじめ)の章とする。

平成庚寅年 夏至